2019年 D・ケイ氏関連活動報告
・表現の自由に関する特別報告者から日本政府への「通知書」:東京新聞記者に関して (2019年7月9日)
(和訳文責 藤田早苗)
・日本政府の回答 (2019年9月4日)
(和訳文責 藤田早苗)
http://www.nagoya.ombudsman.jp/himitsu/190709.pdf
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表現の自由に関する特別報告者から日本政府への「通知書」:東京新聞記者に関して
2019年7月9日
人権理事会決議34/18に準拠した、意見と表現の権利の保護と促進に関する特別報告者としての私の権限に基づき、貴国に申し入れる光栄に浴します。
望月衣塑子記者と東京新聞に関して日本の官房長官が送付した文書について、私が受け取った情報に対する貴国政府の注意を喚起したいと思います。
望月衣塑子記者は、2000年から東京新聞に勤めている記者です。彼女は現在、日本の軍事問題、日本の米軍基地、MeTooなどについて報道しています。
受け取った情報によると―
2018年12月26日、定例の官房長官記者会見が行われ、記者団が菅官房長官に質問する機会があった。
2018年12月28日、官邸記者クラブが上村秀紀内閣官房総理大臣官邸報道室長からの文書を受け取った。文書は2018年12月26日の記者会見における東京新聞記者の菅官房長官への質問に関するものだった。この中で、東京新聞の望月衣塑子記者だと広く理解されている当該記者の「度重なる問題行為」「事実誤認に基づく質問」について、菅官房長官の相当な懸念が表明されている。ここで言及されている記者会見での望月記者の質問は、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設による環境問題への懸念に関するものであった。
同じ文書で上村氏は、当該記者の質問に関して官房長官が東京新聞にたびたび送った苦情にも言及している。そこで、官房長官は記者会見で「正確な事実を踏まえた質問」をするように東京新聞へかねて要請していたことが暗示されている。
2019年2月26日の記者会見での望月記者から菅官房長官への質問は、「質問に答える必要はない」として官房長官によって退けられた。さらに、官房長官会見での望月記者の質問は再三にわたり不当に、司会者によって妨害されている、ということも申し立てられている。
上記のように主張されている事実と懸念について、自由権規約19条の表現と意見の自由の保護を確実にするために、貴国政府があらゆる必要な措置を取ることを強く求めます。記者に特定の質問を避けるよう要求することは、報道機関とその記者を萎縮させるメッセージを送ることになり、政府の持つ情報を求めて、その情報を一般市民に向けて発信する「パブリックウォッチドッグ」(監視役)として知られる彼らの役割を弱めることになります。
私はまたこの機会に、2016年に日本へ公式訪問した後、政府が記者やその他の調査報道に関わるいかなる専門家に対してどのような脅しも行わないと宣言すべきだと勧告したことにも触れたいと思います。
私の勧告は特定の法律や規則だけに関するものではなく、記者が活動する環境一般にも関連があります。
その報告書で触れたように、日本における報道の自由の長期的な発展のため、政府、記者、そして報道機関には、慣行や政策について改善できる点があります。
法律や慣行をめぐるこれらの点について貴国政府との対話を始める機会があれば、私はそれを歓迎します。
これらの主張が正確であるかについて早まった判断をしたくはないですが、内閣官房からのそのような干渉は望月氏が記者の任務を果たす上での妨害になることを懸念します。
また私は、特に政府にとってセンシティブだとみなされるような問題を記者が調査している時に、この文書が彼らの仕事を妨害する危険性があり、よって政府の問題に関する一般市民の情報への権利に影響を与えることを懸念します。
更に、記者の質問に関して東京新聞に以前与えた苦言にまで文書で触れられていることにも懸念を表明します。報道機関や記者は、社会における情報や考えが自由に伝えられるようにする重要な役割を担っています。その役割を十分に果たせるよう、特に役人から情報を得ようとする場合、妨害、抵抗、敵意などなしに、報道機関や記者が公共の利益に関わる情報を求めることができる環境を確保する義務が政府にあります。
上記のように申し立てられている事実と懸念について、関連する国際人権条約と基準を引用した付録「国際人権法の参考情報」を参照してください。
通報されたすべての事例を明確にすることは、人権理事会から私に与えられた権限に含まれる責任のため、以下の点でご意見をいただければ幸いです。
1.上記に要約された事例の事実は正確ですか。
2.2018年12月28日に官邸記者クラブに送られた文書の根拠に関する情報を提供してください。2018年12月28日付の文書の前または後に、東京新聞に苦情が送られた理由はどういうものですか。
3. 官房長官が行う記者会見を規定し、すべての記者が自由に質問できるようにしている現行の枠組みがあれば、それについての情報を提供してください。
60日以内に返答してください。それを過ぎると、通報内容と貴国政府からのあらゆる返答が、通報に関するウェブサイトで公開されます。また、人権理事会に提出される定例報告書でも見ることができるようになります。
返答を待っている間、ここで申し立てられている侵害が継続、再発しないように、また、申し立てが正確だと確認された場合には、言及されている侵害についての責任が問われるように、必要な暫定措置が取られることを強く求めます。
付録
上記のように申し立てられている事実と懸念に関連して、貴国の政府に対し、自由権規約19条に即して、
意見と表現の自由を可能にする環境を確保するために必要なすべての措置を取るよう求めます。記者が特定の質問をするのを避けるように当局が要求すると、報道機関とその記者たちを萎縮させるメッセージを送ることになり、政府の持つ情報を求めて、それを市民に伝える「パブリックウォッチドッグ(監視役)」として知られる彼らの役割を弱体化させることになります。
この機会に、私が2016年に行った日本への公式訪問後の勧告についても言及しておきます。その勧告では、調査報道を行う記者やその他の専門家に対するいかなる形の脅しや威嚇を避けることを公に表明するよう当局に要請しました。私の勧告は特定の法律や規制にのみ関するものではなく、報道記者が活動する環境一般に関するものです。その報告書で述べた通り、日本における報道の自由の長期的発展と役割を確実にするために、政府、記者そして報道機関には、慣行や政策に関して改めうる点があります。これらの点に関する法律と慣行について、貴国政府との対話を始める機会があれば、私は歓迎します。
(和訳文責 藤田早苗)
英語原文
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=24689
日本政府の回答 (2019年9月4日)
特別報告者に何度も伝えているように、表現の自由は日本国憲法21条により保障されている。日本政府は表現の自由を含む基本的人権、民主主義そして自由を擁護し、そのような価値を達成するために絶え間ない努力をしてきている。主要な民主国家で週日に毎日2回、官房長官のような内閣の主要人物が記者会見を開く国は日本だけである。
まず最初に、官邸で通常行われる官房長官の記者会見は、官邸記者クラブが企画しているので、日本政府は会見中に一方的に記者が質問をするのを阻む立場にはない。時々、官房長官のスケジュールのために、内閣官房総理大臣官邸報道室長が記者に対して、質問を簡潔にしたり、質問の数を限定するように協力を依頼することはある。しかし、これは司会役である報道室長から記者団への要請にすぎない。同様に、政府は記者会見を一方的にやめさせたこともない。記者会見の終了は常に、官邸記者クラブから会見のコーディネーター役に任命された記者によってアナウンスされる。(注:このコーディネーター役は記者クラブに所属する報道機関の中で順番に任命されている。例えば東京新聞は2019年2月にコーディネーター役をまかされている。)
さらに、記者会見の内容は首相官邸ウェブサイト上に載るだけでなく、他のメディアによってライブストリームで流される。言い換えれば、官房長官が読み上げる声明や記者の質問を含めて、官房長官と記者団とのやり取りは、会見の終了次第、国内でも海外でもウェブ上で閲覧できる。従って、そのやり取りが、誤認に基づく質問によるものであると、国内外で幅広く誤解を生じ、多くの人が間違った認識を持つことになる。そういう場合は、記者会見の重要性が損なわれる。
上記のような理由で、東京新聞の特定の記者が会見中に事実誤認に基づいた質問をした場合、会見中に事実誤認に基づく質問は避けるよう東京新聞社に協力を要請した。そして東京新聞社からは、今後はその記者が事実に基づき、要領を得た質問をするように指示するという回答を何度も受けてきた。それにもかかわらず、2018年12月26日の会見でその記者が事実誤認に基づく質問をしたので、2018年12月28日の文書で、官邸記者クラブに所属する報道機関に上記の懸念を伝えた。単に官邸記者クラブと各記者に協力を求めたまでであり、その要請にどのように応えるかは彼らが決定できる。
加えて、2019年2月27日の記者会見では、その前日の会見で東京新聞の当該記者から受けた質問に対し「あなたの質問に答える必要はない」と言ったことに関してある記者から質問があったが、「国会や記者会見で何度も答えているが、毎日の記者会見は記者に、政府の見解と立場の要点を伝える機会である。だが、2月26日の会見では、東京新聞の記者に同じ質問を再び聞かれたので、同じ答えをその記者にしたのだ。それにも関わらず、その記者が同じ質問を即座に繰り替えしたので『私はあなたに応える必要はない、つまり、同じ質問に対して同じ答えを繰り返すことを要求されてはいない』といったのだ」と説明した。これに関して、記者会見場に居合わせたある記者は官房長官の主張は理解できる、とコメントしている。(2月27日の会見の要旨はhttps://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201902/27_a.html)
官房長官会見が人々の情報への権利の確保に貢献するように、日本政府は記者の質問にこれからも適切に対応していく。
(和訳文責 藤田早苗)
英語原文
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadFile?gId=34856
英国在住の国際人権法研究者の藤田早苗さんが、表現の自由に関する国連特別報告者デビッド・ケイ氏が2019年6月に提出した日本政府への新たなフォローアップ報告書について3回にわたって寄稿しました。
ぜひお読み下さい。
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19/9/5(木) 17:32配信 アジアプレス・インターナショナル
<危うい言論の自由>国連特別報告者が新たな勧告(1)
ケイ氏の報告をまた拒絶した日本政府 藤田早苗
http://www.asiapress.org/apn/2019/09/japan/david-kaye-1/
19/9/6(金) 11:48配信 アジアプレス・インターナショナル
<危うい言論の自由>国連特別報告者が新たな勧告(2)
メディアにも厳しい指摘 「情報を取るために権力に寄りあう」 藤田早苗
http://www.asiapress.org/apn/2019/09/japan/david-kaye-2/
19/9/7(土) 11:41配信 アジアプレス・インターナショナル
<危うい言論の自由>国連特別報告者が新たな勧告(3)
「勧告は改善への提案です」デビッド・ケイ氏インタビュー 藤田早苗
http://www.asiapress.org/apn/2019/09/japan/david-kaye-3/
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藤田早苗さんは年2回帰国して、日本の表現の自由の現状を伝えています。帰国・滞在費用のカンパを募集しています。
東京新聞の望月衣塑子記者への官邸からの圧力について「表現の自由に関する国連特別報告者」デビッド・ケイ氏から日本政府に通知書が送られ政府の回答と共に公開されて、藤田さんがそれらを和訳して解説をyahooに寄稿しています(19/11/19,20付)。
19/11/19(火) 5:10配信 アジアプレス・インターナショナル
<東京新聞・望月記者への圧力>国連特別報告者が政府に通知書(1)首相官邸との攻防とは 藤田早苗
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191119-00010000-asiap-soci&p=1
19/11/20(水) 5:30配信 アジアプレス・インターナショナル
<東京新聞・望月記者への圧力>国連特別報告者が政府に通知書(2)政府回答のばかげた内容 藤田早苗
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191120-00010000-asiap-soci&p=1
通知書と政府回答の全訳は以下で読めます。
https://bit.ly/2rIcO5B